「潮騒のボレロ」 BY京香


僅かな布ずれの音と共に、ベッドにある二つの影が一つに溶け合った。
蒼く輝く空間に、甘い吐息が響き渡る。
無意識に伸ばした手を掴まれて、ベッドに縫いつけられた。
うっすらと開いた目に、優しい男の顔が映った。


男が唇を吸う度に、高耶の背中に這い上ってくるものがあった。それに流される
のが恐くて、顔を背けようとするが男の口付けは容赦がない。入ってきた舌が思
うさま口腔を蹂躙して、高耶のそれを絡め取った。
男と重ね合わせていた高耶の手が、ピクッと動いた。が、それに気づかないフリ
をして、男は高耶の唇を貪る。
「…ぁ……ふ…」
僅かに開いた唇の隙間から、高耶のやるせない吐息が漏れる。その音色を心地よ
く聞きながら、直江は漸く唇を離した。
――ハ…っ…、――ハ…っ…。
すっかり息の上がった高耶が、潤んだ瞳を直江に向ける。涙をいっぱいに溜めた
黒い瞳は、直江の劣情を煽るのに充分だ。直江はこのまま高耶を貪りつくしたい
衝動にかられたが、敢えて踏み留まった。
頬にキスを一つ落として、顔を起こした。乱れた髪を手櫛で直してやりながら、
直江は口を開いた。
「綺麗ですね…」
うっとりと囁く直江に、高耶は瞬時に顔を真っ赤にさせた。
「なおえっ」
恥ずかしいこと言ってんなよ、と目付きをキツくする高耶に、直江はクスリと笑
った。
「あなたの躰に、…ほら。綺麗なブルーが落ちて、まるで水族館にいるみたいで
すよ」
言われて自分の躰を見下ろすと、高耶の躰は薄い蒼色に染まっていた。ラックの
上に置いたコンポが、淡く点灯しているのだ。
「わっ。なんっか明るいと思ったら…」
ここにきて、高耶は初めてコンポの電源を切り忘れていたことに気がついた。見
ると、部屋全体がまるで海の底にいるみたいに蒼く輝いているではないか。
おニューのコンポはインテリアを重視していて、自由に色を変えることが出来る
ものだった。普段は昼間なり電気を点けている時に使っているので、色に頓着す
る事はなかったのだが、今日はたまたま寝る前にコンポを使用したのだ。その時
に夏らしく、爽やかなブルーに設定し直したのを、高耶は思い出した。
(そっか。あのまま寝ちまったんだな…)
その後の記憶が無いところをみると、CDを聴きながら寝入ってしまったらしか
った。その寝ている高耶に、非常識男・直江が夜這いを仕掛けてきた、といった
ところか。
やっと目が覚めてきた高耶は、ぼんやりと思った。
(しかし……)
直江には寝込みを襲うな、と口をすっぱくして言っているのに、一向にやめよう
としない。全く困った奴だ、と思いながらも嫌じゃないのが悲しい。それどころ
かいつしか高耶も、直江の夜這いを容認しているのだから始末におえない。
(ま、いっか…)
高耶とて、直江の腕の中で眠れるのは嬉しくない訳がない。それよりも、
(こんなに色、出てたんだ)
高耶は初めて見る光景に感心した。寝る時はいつも電源を切ってしまうので気が
つかなかった。今日に限って妙に明るいと思ったのは、コンポのせいだったのか。
直江に覆い被られていたせいでわからなかった。
部屋の中は、薄いブルーの光に包まれていた。それはそう、テレビや雑誌などで
見かける『海の底』の色によく似ていた。高耶も思わずウットリとしかけて、で
も、いつもと違って明るいのに不満を覚えた。こう明るくては、直江にナニモカ
モを見られてしまうではないか。今更ながらそう思った高耶は、とにかく電源を
切ろうと手を伸ばした。いつもと違う雰囲気が、何とも居心地が悪い。
高耶は枕の近くに放っておいたリモコンを手に取った。
「待って、高耶さん」
「あ?」
電源を切ろうとした高耶に、直江はすかさず制止の声をかけた。そうして、高耶
が手にしているリモコンを取り上げてしまう。
「直江?」
不思議そうに見上げてくる高耶に、直江は深い笑みを浮かべる。
「折角だから、このままにしましょう。マリンブルーの光りに包まれたあなたは
、とても…素敵だ」
「バカっ」
直江の口から出た歯の浮くセリフに高耶がカァッと顔を赤らめて拳を振り上げた
が、直江はそれを何なく躱すと、罵声を紡ぐ愛しい唇をふさいだ。
「今日はこのままで…、あなたを抱きたい」
言いながら、直江の淫らな手が高耶の胸元の飾りを弾いた。
とっさに嫌だと思った高耶だったが、直江の深い声が高耶の脳にじんわりと染み
込んで、瞳に映るブルーと相まって高耶に海の中にいる錯覚を起こさせた。

ゆらゆら――。ゆらゆら――。

直江の巧みな指が、高耶の肌の上を優しく踊る。それに合わせて揺れる躰が、…
心地よい。


高耶は男に導かれ、瞳を閉じた。
唇が伝う感触に感じて、甘い声を上げる。
遠くに聞こえるは、潮騒のボレロ。
潮のなか優しく抱かれ、高耶は意識を手放した。


fin.
 


またまた京香さんに素晴らしい小説を頂きました〜☆夜這い・・・したい(笑)寝起きの高耶さん、すっごい可愛いんだろうなぁvvライティングされた高耶さん〜☆綺麗・・・(笑)直江じゃないけど、ウットリです〜vvとっても雰囲気のある作品でした☆☆
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