「あじさいと雨と」 BYみーさん


高耶と直江は闇戦国がらみで伊豆まで来ていた。仕事が片付いた後、直江の提案で、下田まで足をのばすことにした。この時期の下田公園では群生したあじさいが美しい花を咲かせている。
今の季節にしか見られない花を、高耶に見せてやりたいと思ったからだ。

「へぇ、あじさい祭りなんてやってるんだ。」
公園の入り口に立てられた看板を見て、高耶がつぶやく。そういえば観光客の姿が目につく。
「この公園には15万株のあじさいが植えられているそうですから。今日は平日ですが、休日にはもっと人が多いでしょうね。」

直江のウィンダムを駐車場にとめて、二人は公園に入って行く。
午後4時を過ぎ、あいにく天気も小雨が降ったり止んだりしているような状態なので、帰っていく観光客が多い。二人は人の流れに逆らうように、遊歩道を歩いた。

石畳に覆われた通路の両側はあじさいの花が所狭しと咲き誇っていた。
ピンク、ブルー、薄紫・・色とりどりの花びらが、雨の雫をふくんでつややかに輝いている。まるで公園のあるこの丘が、一つのあじさいの群れになっているようだ。

「うわ、すっげー・・。あじさいの花もこれだけ咲いてるとキレーなもんだよな。」
口をあけ、目をまるくして驚いている高耶はまるで子供のようだ。
直江はそんな高耶を見て口元をほころばせた。

「いろいろな色がありますね。種類も多いし・・。額あじさい、山あじさい、ブルーキング・・」
「いつも思うんだけど、おまえって何で花の種類まで知ってんの?」
「さあ・・?どうしてでしょうねぇ。」
「・・年の功ってやつ?」
「ひとを年寄りあつかいしないで下さい。」

たわいない話をしながら、二人は公園の奥へ歩いていく。公園とはいっても意外に上り坂が多い。
「高耶さん、足元に気をつけて下さいね。石畳が雨で濡れてすべりますから。」
「・・おまえ、オレをいくつだと思ってる・・。子ども扱いすんなよ!」
直江の言葉に高耶は頬を紅潮させて、にらみつけてくる。

そういうふうに、すぐムキになるところが子どもっぽいんですけど・・とは心の中で思っても口には出さずにいる直江だ。だが直江の表情を見て考えていることがわかったのか、高耶はくるりと向きをかえ、わざと早足で歩いていく。

(直江のやつ、いつもオレを子どもあつかいして・・!すぐに、頭なでたり、食べ物で機嫌取ったり・・)
こんな些細なことにも、反応してイライラしてしまう自分もいやだった。直江といつまでも対等になれない気がして、くやしかった。

そんなことを考えながらどんどん歩いていたので、直江との距離がけっこう開いてしまった。背中に直江の気配がないのは、ひどく不安で、自分を取り巻く空気までが寒々しい。
花を見ているふりをして、待っていようか。でもそんなの照れくさい。
(直江が悪い!ちゃんとオレについて来ないから・・!)

そう思いながらも、だんだん歩みが遅くなる。
やがて、やんでいた雨がぽつり、ぽつりと降りはじめた。高耶は傘を持っていない。
だが次の瞬間、雨つぶは何かにさえぎられ、高耶の顔まで落ちてこなかった。

「直江、遅い!」
「すみません、高耶さん。雨、降りだしてしまいましたね。」
後ろから声をかけながら、直江が高耶に傘をさしかけていた。用心のために1本だけ持ってきていたのだ。高耶は直江を振り返りもせずに歩いていく。

「高耶さん、傘をさして下さい。濡れてしまいますよ。」
「たいした雨じゃない。おまえがさせばいいだろ。」
まだ機嫌が悪いのだろうか・・直江はため息をつくと、そのまま高耶の後ろから傘をさしかけてやりながら、坂道を登った。

傘はほとんど高耶の方に傾いているので、直江は半分以上濡れている。
直江は相変わらず高価なスーツが濡れても、全然気にならないようだ。

「おまえ、背中が濡れてるぞ。・・もっとちゃんと傘に入ったらどうだ。」
「私は別に濡れてもかまいませんから。それより高耶さんが風邪をひいたら困ります。」
「おまえが気にしなくても、オレが気になる!」
高耶はそう言うと、乱暴に傘ごと直江の腕を自分のほうに引いた。

「相合傘とは光栄です。」
「傘が1本しかないんだから、仕方ないだろ。」
1本の傘に大の男が二人で入っているというのも、少し恥ずかしいものがあるが、もう観光客の姿はどこにも見えない。

直江は高耶の歩調に合わせて歩いている。直江の体温がすぐ近くに感じられて、高耶はほっとした。
こんな風にいつも肩を並べて歩けたらいいのに・・。

やがて二人は高台にある展望台に着いた。下田湾が一望できる見晴らしのいい所だ。
「晴れていればもっと綺麗でしょうね。・・高耶さん、寒いんですか?」
高耶はうつむいている。肩が、心なしか震えているようだ。直江は片方の手で傘を持ち、もう片方の腕で高耶を自分の胸に抱きこんだ。

「直江・・この場所・・」
高耶は不安そうな目で直江を見上げている。直江は自分がうっかりしていたことに気がついた。
「大丈夫ですよ。・・この公園は・・北条方の山城があったところでしたね。」
安心させるように、直江の腕に力がこもる。高耶は素直に直江の胸に身体をあずけた。

下田公園は別名城山公園とも呼ばれ、戦国時代には、北条氏の鵜島城があったところだ。
小田原攻めの時には、清水康英が城主となって、豊臣方の水軍が小田原を攻めるのを防いだそうだ。今でも空堀の後などが残っている。

「清水氏は50日間も城を守りつづけたそうですよ。結局は長曾我部元親に敗れましたが・・」
「その時は、もう景虎(オレ)はいなかったけどな・・」
「そう、ですね。」
直江が痛そうな表情をしているだろうことは、顔をみなくても高耶にはわかった。

「バカ!おまえが暗くなってどうすんだよ!」
高耶は自分から直江の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「た、高耶さん?」
突然の高耶の行動に驚いて、情けない声になっている直江である。

「いちいち昔のこと思い出して暗くなるな!・・この公園だって、もう北条の兵士の残留思念だってほとんど残ってないし、今は花を楽しむ人がいっぱい来てんだから。
・・だから、おまえがそんな顔することない・・」
「高耶さん・・。そうですね。この場所も、今は人々が癒される場所になっているんですね。」

いつの間にかあたりはうす暗くなりはじめている。雨ももうすぐ止みそうだった。
「高耶さん、そろそろ戻りましょう。お腹もすいてきたでしょう?」
直江の言葉に高耶がぱっと顔を輝かせた。まだ直江に抱きついたままだったのを思い出して、あわてて身体を離す。

「オレ、刺身食いたい!せっかく伊豆にきたんだし。」
「・・それじゃ、どこかに泊まって温泉にでもゆっくり入りましょうか?」
「そ、そうだな・・ちょっと疲れてるし。」
温泉・・と聞いて、何故か顔を赤らめてしまう高耶だ。照れ隠しに先に立って歩き出す。

「雨、もう止みそうですね。」
直江が傘をたたもうとすると、高耶が急にふりむいて言った。
「直江、まだ・・雨が降ってる・・」
無意識に見せる高耶の寂しそうな表情に、直江はもう一度傘を開いて、自分と高耶の間にさしかけた。

「暗くなってきましたから、足元に・・」
気をつけて下さい、と言おうとした時、高耶の腕が伸びてきて、直江の腕にからみついた。
「こうすれば、大丈夫だろ?」
「・・ええ、ちゃんとつかまっていて下さいね。」
「おまえが心配性でうるさいから、だから特別につかまっててやる。」

あじさいの花の群れの中に、一輪だけ傘の花が咲いている。もう雨はとっくに止んでいたけれど。

【終わり】


最後のセリフに何度読んでもニヤニヤしちゃう・・(笑)高耶さん可愛いvvうふふふふvv(壊れ)花の名前を次々と言う直江・・・そのうち女子校の制服を言い当て出しそう・・とか思う私は腐ってるんだろうな・・;;みーさん、ありがとうでした!
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