「眠れない夜」 BY京香


僅かに聞こえるシーツの擦れる音に、直江は目を覚ましていた。
(なんだ、こんな時間に…)
そう思いながら見れば、前にある背がモゾモゾと動いている。
(高耶さん?)
今日も今日とて、一緒に就寝した二人だ。さきほどまでは、かなり熱い時間を過
ごした。何度も気をやった高耶は熟睡していたはずなのだが……。
「……ハァ…」
眠れ、ないのだろうか。
しきりに身をよじってはため息をつく彼に、直江は声をかけてみた。
「高耶さん…?」
「…っ!」
名を呼んだとたん、不審な動きをしていた高耶がピタリと動きを止めた。そして
そのまま身動き一つしない。いくら待っても動きのない彼に、見つかったことが
不本意であったことを知った。
(もしかして、起こすつもりではなかった……?)
ふいに浮かんだその考えは、彼を見れば間違いないだろう。毛布にくるまったま
まじっと息を殺している高耶は、直江の呼びかけを無視するこでやり過ごそうと
している。その子供じみた行動に、思わず笑みが漏れる。
「高耶さん。高耶さん。こちらを向いて。もうわかっているから」
こぼれ落ちそうになる笑みを耐えて諭すように言うと、それでもしばらく沈黙し
ていた高耶は、やがておずおずと体の向きを変えた。
「……悪ィ。起こしたか?」
寒さからなのか、それとも後ろめたさからなのか、高耶は毛布の中から顔だけを
覗かせた。
「えぇ……。眠れないんですか?」
高耶の言葉にやはりと思いながら、毛布の上から体の線をなでてやると、高耶が
恥ずかしそうに、けれど満足そうに吐息した。穏やかなさざ波のような男の慰撫
が気持ちいいのだろう。幸せそうに目を細めた高耶は、今にもゴロゴロと喉を慣
らしそうである。
「あぁ。なんか急に目が覚めちまって。目ぇつぶってみたんだけど、寝れねぇ」
そう言って唇を尖らせる高耶。眠れない苦しさは、直江にも経験がある。今まで
気持ち良く寝ていたのが嘘なくらい頭がハッキリして、どうしても眠りにつくこ
とが出来ないのだ。
眠らなくては。
そう思えば思うほど、目が冴えてどうしようもなくなる。そしてそんな時、なぜ
だか一人取り残されたような孤独を感じた。愛しい存在がすぐ目の前にいるとい
うのに、この世界にいるのは自分だけのような気がして、焦りを感じてしまうの
だ。それが、眠れなさを冗長させると知っていても。
きっと、高耶も同じだったのだろう。理由もなく伸ばされた手が、それを物語っ
ていた。
「何か、お話しますか?」
直江の言葉に、高耶はギョッとした。
「え…っ!? い、いいよっ。お前は寝ろよ。明日に障るぞ」
「あなたを置いて眠れませんよ。何がいい? 何の話をする?」
「い、いいって…。寝ろよ、もうっ」
「あなたが眠るまで寝ません。ほら、何の話がしたい? 何でもいいんですよ。
言って。ねぇ、高耶さん」
なんなら、何か歌ってもいいんですよ?
口元に密かな笑みを浮かべてそう囁くと、高耶が目に見えてうろたえのたがわか
った。もう一押しと彼の肩を掴むと、高耶がビクッと体をすくませた。
「う、うるせぇ。いいって言ってんだろっ! 離せよっ」
しつこい男にムキになって声を荒げた高耶は、勢いのまま拳骨を一つ飛ばしてい
た。とにかく黙らせよう、そう考えた結果だった。
「………痛いです、高耶さん」
いきなりグーで殴られた直江は、恨めしそうな声を出した。しかし高耶はすまし
たもの。
「お前が悪いんだからなっ」
そう言って、くるりと背を向けてしまう。しかし、一見拒絶したように見えて、
実のところ彼が照れているだけなのがわかる。直江に見せた白い背が、かまって
欲しくて仕方ないといっている。
直江は高耶の肩に毛布を掛け直してやった。
「……寒くない?」
今は真夜中だ。かなり気温が下がっている。自分の手が冷たくなっていることに
気が付いて問いかけると、高耶は掛けられた毛布をグッと引き寄せた。
「………さむい」
直江も高耶も何も身に付けていない。寒いのは当然だ。
後ろから抱きしめてやると、高耶は驚いたようだ。けれど、すぐに直江に身を任
せてきた。それに愛しさが募った直江が更に強く抱きしめてやると、高耶はほぅ
…と満足気な息を漏らした。
腕の中の高耶が、安心しきっているのがわかる。
日頃は、誰に対しても牙を向いている彼が。
こんなに穏やかな顔を、自分だけに見せてくれている。
他でもない自分の腕の中で、自分の腕の中だけで、安らいでいる彼を見るのはな
んて幸せなことなのだろう。
信頼されている。
頼りにされている。
愛して…くれている。
彼のような愛しい存在に、そう思われているのが嬉しい。
世界中で一番の幸福を噛み締めながら、直江は口元に微笑を漂わせた。
満たされている……。
そう思った瞬間だった。


しばらくして、高耶がほわわぁとあくびを一つした。どうやら、遠のいていた睡
魔が再び訪れたらしい。冷たい耳たぶをやわやわといじってやると、高耶がうに
ゅうにゅと口を動かした。
「眠れそうですか?」
闇に溶け込みそうな低い声で囁いてやると、高耶は「うー…」と小さく唸った。
もう限界なのだろうか。
高耶は返事もままならない。
さきほどまであんなに元気だったのに…。
直江は苦笑すると、高耶に倣って目を閉じてみた。
先ほどよりも深い闇の中、風の逆巻く音が聞こえる。
そして、高耶の静かな寝息も。


眠れない夜は、ようやく終わりを告げたようだ。

fin.


幸せです(><)vvvはぁぁぁぁvvそうか、こういうあまあまもあるのか!! とあまあまの定義を
再認識した私です(笑)すっごい幸せ〜〜〜☆直江も高耶さんも幸せそうで・・私も幸せ☆
京香さん、ありがとうございましたvv
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