つたわるきもち」 BY真波さん


休日の昼下がりのリビング。
直江は仕事を持って帰ってきていないし、高耶も家事は終わらせてしまった。
ベランダでは洗濯物が緩やかな風に吹かれてはためいている。
直江は読んでいた経済紙から目を上げた。
足元では高耶が直江の足にもたれてじかに床に座り込み、バイク雑誌に
見入って いる。
その耳には何故かイヤホン。
伸びたコードの先は直江が座っているソファの端の方に投げ出されている
MDウォークマンに繋がっていた。
リビングで音楽を聴けない訳ではない。
コンポこそ置いていないが、それは高耶が自室からコンポを持ってくれば済む事
なのだ。
現に何度かそうしているのも見かけた事もある。
掛けている曲に直江が文句をつける訳でもない。
直江からすれば高耶が気に入っている曲なのだ、一緒に聴き入る事はあっても
文句を言う事など考えもつかない。
直江の逡巡をよそに、高耶は安らいだ表情でのんびりと雑誌のページを捲っている。

・・・・・・・・気になる。

「高耶さん、何を聴いているんですか?」

直江の問いかけに、高耶は上を仰いだ。
そしてにっこりと笑う。

「ひみつ」
「別にコンポで聴いても良いんじゃないですか?」
「そんな気分じゃない」

高耶は上機嫌で雑誌に見入っている。
時折口元に手を当てて考え込むのは購入を検討でもしているのだろか。
この態勢だと高耶の顔が見られない上に、イヤホンをしている事で何だか拒否されて
いるようにも感じられる。

「高耶さん、せめてソファに座りませんか?」
「嫌だ。オレこの格好が落ち着くの」

顔すら上げずに高耶が言い放つ。

「だったらこれならどうです?」

高耶に素っ気無くされた直江は、実力行使に出た。
足元に座り込んでいる高耶の両脇に腕を差し込んで持ち上げ、自分の膝の上に
高耶を抱きこんでしまう。
当然あるかと思われた抵抗は無く、ちょっと冷たい視線がちくちくしたくらいだった。

「お前さぁ・・・ いや、何でもない」

高耶は言葉を切った。
そして自分の耳からイヤホンを片方だけ外し、直江につけさせる。
流れ込んでくる女性の低めの、祈るように謳い上げる声。
重なってくる高く澄み切ったコーラス。

「これなら文句無いだろ」

そう言って直江の膝から下り、ソファに横向きに座り、足を投げ出して直江にもたれかかる。

「そうですね」

背中に直江の温もりを感じながら、高耶は雑誌を拾い上げた。
直江も経済紙の続きを読み始める。
曲は別のものに変わって男性の、やはり祈るような声が響いている。
言えなかった言葉に対する後悔と、最上を掴み取るまでにあるだろう苦難、
そして全てに勝る祈りを紡ぐ歌声。

「言えなかった言葉、ですか」
「うん。何かコンポで聴く気がしなくてな」
「考えさせられるから、ですか?」
「いや、まあ・・・」

言葉を濁す高耶。
何やら言いにくそうにしている高耶に、直江は愛しげに目を細めた。

「言わないと後悔するかも知れないじゃないですか」
「・・・・・・・それが嫌だったんだって」
「何が、ですか?」
「お前に勘ぐられるのが」
「そんなに私に隠し事をしていたんですか?」
「してねぇってば! 大体お前、言いたい事幾らでも言ってるじゃねぇか。
オレが言いたい事も言う前に何か分かってる時もあるだろ」

確かに。
ボーカルが謳い上げていた、言えなかった言葉に対する後悔など自分達には関係ない。
伝えたい事はいつだって口にするし、何より四百年も一緒にいたのだ、口にしなくとも
伝わる言葉がある。
まるでイヤホンの右と左のように、心のどこかで常に繋がっているから。
そして同じ音を聴いて、同じ時間を過ごして。


一番大事なことは、言葉なんかじゃなくて・・・・・・・・・


END
 


真波さんに1周年のお祝いとしていただきました☆まさか管理人以外から1周年祝いがくると思わなかったので、嬉しかったですvv
何かほんわか〜*とした話で読んでてニヤけました(><)ほのぼの、好きです☆たかだかイヤホン相手に嫉妬(?)する直江が何かすごい良かった(笑)高耶さんも可愛い〜vって感じじゃなく、適度に男の子っぽくて、ゆの的ツボですvv
真波さん、ありがとうございました〜☆
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