「Birthday」 BY真波さん



五月三日、朝。
宇都宮の橘家では、一騒動が持ち上がっていた。
事の発端は、三男の義明こと直江が、最愛の高耶さんの待つ東京のマンションに帰ろ
うとしたことだった。
「ちょっと待って下さい、もう俺は帰ってもいいはずでしょう?」
「駄目だ。まだ法事が残ってるんだ。大体、俺が家族サービス返上で手伝ってるって
のに、一番ヒマな筈のお前がとっとと帰る?駄目だなそれは」
「そうそう、普段から親不孝してるバツだよ。大人しく手伝って帰るんだね」
「そんな、俺は今日帰ると高耶さんに!」
「それならアタシがさっき電話しといたわよ。法事が立て込んでるって云ったら、
『サボらずにちゃんとやってこい』って言ってたわ」
「そんな、高耶さん・・・」
「でかい図体して、いちいち落ち込むんじゃない。見苦しいだろうが」
「たかやさん・・・・・・」
兄姉によってたかっていぢめられる、とことん立場が弱い、三男坊であった。






一方、東京の高耶は、というと。
「直江のばか……」
ぽつ、と切なげに呟いて、一人では広すぎる部屋を見回した。
同居人、兼後見人、兼恋人こと、直江は今日の昼過ぎには帰ってくるはずだったの
だ。
しかし、直江の実家の光厳寺で法事が立て込んでいるらしく、彼の姉から連絡があっ
たのだ。
曰く、直江をもう少し借りる、と。
「直江の奴……今日が自分の誕生日だってのに、まさか忘れてんじゃねーだろう
な…」
ちゃんと用意したプレゼントも、もしかしたら今日中に渡せないかもしれない。
大体あいつ、オレの誕生日となったら、オレが嫌だって言っても無理やりにでも祝う
くせに、自分のこととなると本当に疎くなるんだからな…
「オレだって、お前のこと祝ってやりたいんだぞ…」
はふぅ、と溜め息をついたとき、電話が鳴った。







直江が東京に戻ったとき、あたりはすっかり暗くなっていた。
高耶が待ちかねているだろう、部屋の窓に明りが灯っている。
その明りに、ほんのりと暖かい気持ちになりながら、直江は車を止め、エレヴェータ
で最上階まで上がった。
部屋の前でインターフォンを押す。
高耶が出迎えるだろう、という予想はあっさりと裏切られた。
「おっかえりぃ〜直江っ!」
「ったく、主賓が遅刻なんてすんなよなー」
「晴家、それに千秋! どうしてお前たちが居るんだっ!」
しかも気持ち良く酔っ払った状態で。
「そりゃあ、三十路男の誕生日なんて、誰も祝いたくないわよ。でも、景虎が寂しそ
うにしてたからね」
「そうかぁ? 単に景虎と飲みたかっただけだろうがお前は」
「まぁね。だって、直江ってば景虎をヒトリジメしてるんだもん、ちょっとくらい借
りてもバチ当たんないわよ」
「お前ら……」
ふつふつとこみ上げる怒りを押し隠しもせずに、直江の声が地を這う。
「で、高耶さんはどうしてるんだ?」
「ああ、それなんだがな…」
千秋が声をひそめた。
「まさか、何かあったのか?」
「いんや。潰れて寝てる」
「…………」
なるほど、リビングでは酒宴の残骸らしい空きビン、空き缶、コップその他残飯類が
散乱し、その隙間に高耶が、身体を丸めて転がっている。
しっかりと細長い箱を抱き締め、首には何故か、白く柔らかい、大きなリボン。
「どういうことだ、これは」
「やっぱ、誕生日にはプレゼントがつきものだろ? ホレ、俺サマたちに感謝しなさ
い」
「こうやって寝てるときでもないと、リボンなんて巻けないものね〜」
どうやら、高耶をラッピングしてプレゼントと言いたいらしい。
確かに、幼い寝顔に、大きな白いリボンは良く映える。
ただでさえ可愛らしい高耶なのに、もはや凶悪なまでに可愛らしい。
ふらふらと手を伸ばしかけた直江だったが、酔っ払い二人組に、肩をぽんっ、と叩か
れて我に返った。
「とゆーわけで、俺サマたちは退散するわ」
「ちゃんと手加減しなさいよね〜」
にんまりと人の悪い笑みを残して、すたすたと部屋を去っていく二人。
「わざわざプレゼントしてもらわなくとも、高耶さんは俺のモノなんだがな…」
直江は憮然と呟いて、もぞもぞと身動きする高耶に手を伸ばした。
「ん。なお、え……?」
高耶はまだ意識がはっきりしないのか、ぼんやりと視線を彷徨わせる。
そして、ようやく直江がいる事を認めると、ふわぁり、甘い笑みを浮かべた。
「おかえり、なおえ」
「高耶さん…」
それだけで、今日一日の疲れも、全て吹き飛んでしまった。
「オレ、まってたんだからな…?」
「それは…済みませんでした」
「うん。でもかえってきたからいい。そうだ、コレ、おまえに」
おずおずと、抱えていた細長い箱を差し出す高耶の手に口付け、丁寧にラッピングを
はがす。
現れたのは、深い色のネクタイ。
そして、込められた高耶の想い。

「たんじょうびおめでとう、なおえ」



「うまれてきてくれて、おれをみつけてくれて、それから、おれをあいしてくれて」



「おれ、すごくうれしい。ありがとう、なおえ…」



高耶はゆっくりと言い切って、きゅうっ、と直江にしがみついた。
照れたのか、それとも単に酔ったのか、顔がほんのりと赤く染まっている。
直江はふわりと微笑して、愛しい恋人を抱き締めた。




「ありがとうございます。そうして貴方が祝ってくれるのが、何よりも嬉しい」


だから高耶さん、貴方の誕生日も祝わせてください。
これから先、ずっと。
貴方に逢えた事を感謝するために。

愛しています。

ありがとう、誰よりも、愛しています……


Fin


直江がとてもイイ思いをしてますね〜。あんなかわいい高耶さんを側に置いておけるのだから、家業のお手伝いはきちっとせねば(笑)。ひらがなモードの高耶さんが、強烈に可愛かったですv真波さん、ありがとうございました〜!!
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