今夜は、妙に落ち着かなくて、なんだか眠る気にならなかった。
理由は分かってる。
分かってるけど、余り認めたくない。
直江に逢えないせいだ。
あいつの仕事が忙しいから、仕方無いって事くらい分かってる。
認めたく無いのは、たかが一ヶ月逢えない事くらいで、こんなにも落ち着かなくなっ
てるオレ自身。
あいつの声が聞きたい。
あいつに逢いたい。
いつもの雑誌もTVも何の慰めにもならない。
・・・全部あいつのせいだ。
「なおえ・・・」
電話が、鳴った。
時計を見ると針が二本とも真上を指している。
日付が変わった。
「うっせーなぁ・・・。誰だよこんな時間に・・・」
受話器を取ると、今まで酷く焦がれていた声が溢れ出した。
『もしもし? 高耶さん、もしかして寝てました?』
「あぁ、寝かけてた。何なんだよこんな時間に」
少し照れ臭くてわざと不愛想に喋る。
でもあいつはそんな事分かってやがるんだ。
だって今電話の向こうであいつが笑った気配がした。
・・・何か、ムカツク。
「だから何の用なんだよ!」
『高耶さん、誕生日おめでとうございます』
・・・・・・。
『どうしたんです? 高耶さん』
直江ってやっぱヘン。
「それだけのためにこんな時間に電話してきたのかよ!」
また、笑う気配がした。
『電話だけではありませんよ。窓、開けてみて下さい』
「窓ー?」
ぜってーこいつ何か企んでやがる。
いいぜ、乗ってやる。
受話器を置いて窓を開けた。
そして下を見下ろすと、見慣れた車と人影があった。
街灯のぼんやりした明りに照らされて、まるで舞台でスポットライトを浴びているよ
うな、決まりすぎの影。
ダークグリーンのウィンダムと、きっちりスーツを着こなした長身の男。
そいつは今まで使っていたらしい携帯を手に、やたら嬉しそうに微笑んでいる。
「お久しぶりですね、高耶さん」
「なおえ・・・っ!」
慌てて部屋を飛び出し、アパートの階段を駆け降りる。
何だってこいつがここに居るんだよ。
仕事サボって来てたりしたら承知しねーんだからな!
直江に駆け寄ると、有無を言わさず抱きしめられた。
「直江、お前仕事は?」
「休みを貰って来ました。あなたがこの世に生を享けた記念すべき日を、二人で祝い
たかったので」
・・・ぜってーこいつバカだ。
たかが誕生日じゃねーか。
でもそうやって愛してくれるからこそ、意地張っちまうのも事実で。
「暑い。離れろよ」
「では、暑くない場所なら良いのですか?」
オレの顔を覗き込んで来る、色素の薄い瞳。
確信犯の低い声。
赤くなった顔を見られたくなくて下を向く。
「お前さ、どーせホテルかどっか予約して来てんだろ?」
「まあ、そうですけど」
「連れて行け」
お前と、一緒に居たいから。
勝手にウィンダムの助手席に滑り込む。
直江は一瞬だけ固まって、すぐに苦笑して運転席に乗り込んで来た。
「珍しいですね。あなたがそんな事を言うとは」
「まあな。祝ってくれるんだろ?」
そう言って笑いかけてやる。
たまには素直になるのも悪くない。
だって今日はオレの誕生日だから。
End
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