「愛の波と戯れて」 BY京香


「!」
足を一歩踏みいれたとたん、体を瞬時に襲った冷気に直江は眉を顰めた。
(何だ、この寒さは)
外のうだるような暑さとはまさに両極端。まるで、砂漠の真ん中から南極にでも
ワープしてきたようである。ひんやりとした空気はうっすらと浮かんでいた汗を
ひっこめ、夏に不向きな鳥肌を立てた。
考えられるのは、同居人の高耶だった。今日は講義が一コマしかないと聞いて
いる。自分よりも一足も二足も早く帰宅した高耶が、クーラーを「強」にして使って
いるだろう事は容易に予想が付いた。
それはいい。それはいいのだが……。
(いくらなんでも、温度が低すぎやしないか?)
こんな所にいたら風邪をひく。いや、それどころか、
(ともすれば体を壊してしまう!)
そう思った時にはリビングに飛び込んでいた。
「高耶さん!」
部屋に入って辺りを見渡す。玄関先とは比べものにならないほど冷えた室内に、
高耶は、いた。
ソファー・ベッドの上で身を縮めて丸くなっている姿に、驚きながらもすぐに近
寄ると、直江はすっかり冷たくなった体を抱き起こした。
「高耶さん、高耶さん…っ」
高耶は熟睡していた。よくもまぁこんな寒い所でと思った直江だったが、この体
の冷たさからすると、部屋が冷えきらないうちに寝入ってしまったのかもしれな
い。それならば仕方ないな、と思いつつもいったい何度に設定しているんだ、と
愚痴をこぼさずにはいられない。
肩を掴んでガクガクと何度か揺さぶると、ようやく高耶が目を覚ました。小さな
声を漏らしながら目を開けた高耶に、直江は安堵の息を吐いた。
「高耶さん…」
「…あれ? 何やってんの、おまえ……」
目をしょぼつかせた高耶がのんきな声を出した。寝起きのせいか、口調がゆっく
りである。不思議そうに首を傾げているところをみると、直江が目の前にいる理
由がわからないらしい。
「何って…、帰ってきてみたら家の中が冷凍庫のように冷えていて…。驚きまし
たよ、高耶さん。こんな所で寝ていたら体を壊します」
心配から少し怒気を含ませながら言ったのだが、高耶はぽやんとしたままである。
まだ頭は眠っているのだろうか。ソファにもたれながら、「そういえばさみーなー」
等と呟やいている。
そんな高耶に思わず声を荒げようとした直江だったが、どことなく精彩を欠いた
顔をした高耶に直江の胸に不安がよぎる。
「高耶さん大丈夫なんですか?」
「んあ?」
「ぼうっとしているみたいですが」
言いながら額に手を当てると、通常の高耶からは想像もつかないほど肌が冷たく
なっている。
「高耶さん、こんなに冷たくなって…!」
愕然とした直江は、すぐに行動に移した。
背広を手早く脱いで高耶の隣に腰を下ろすと、すっかり冷えた高耶の腕を掴んで
自分の元へと引き寄せた。バランスを崩した高耶の上半身を膝の上に乗せ、膝枕
をするような形を取る。
成すがまま引き寄せられた高耶は、そこが指定席かのように直江の腕の中にすっ
ぽり収まった。が、
「な、直江っ」
ここにきて、高耶はようやく我に返った。
起き抜け早々直江に小言を言われ、無視して眠ってしまおうとしたのに、その直
江に抱き込まれてしまった。直江の腿に頬を押しつけていると思うだけで顔が赤く
なるというのに、ちょっと視線を上げただけで男の端正な顔が目に入ってくる。
間近で直江を見るのは慣れている高耶だったが、真下から見上げるというのは滅
多にない事であった。やけにドキドキしてしまって落ち着かない。さらに、上半
身を男に預けた恰好は端から見ても甘えているようであり、また、日も高いうち
から男とくっついている自分の姿がとても恥ずかしく思えた。
慌てて体を起こそうとしたが、その時鼻を掠めた嗅ぎ慣れた匂いに高耶は思わず
動きを止めた。
(あ、これって……)
直江が付けている男性用コロンに混じって、微かにタバコの匂いがする。
(やっぱり、タバコ吸ってんだ……)
直江は普段、高耶の前ではタバコは吸わない。それは主君の前で吸う事は出来な
い、というアナクロニズム的発想からくるものであった。
400年以上も一緒にいて、更に主従関係という枠を大きく逸脱した今、そんな
こだわりを持つのはおかしいとは思う高耶であったが、実は高耶はそんな直江が
気に入っていたりする。対等な立場にも憧れるが、直江が自分に対して”特別”
扱いするのも気持ちが良かった。自分にだけ、というのがたまらくいいのだ。
まぁ、そんな訳で直江は高耶の前では一切タバコを吸わず、高耶としてもわざわ
ざ直江がまずいタバコを吸って肺を患わせることもないだろうと思っているので、
その事に対して口に挟んだことはなかった。外で吸う分には関知しないので、
どのくらい吸っているのかはわからないが、家に帰ってきた時だけでも禁煙する
に越した事はないだろう。
その直江から、僅かではあるがタバコの匂いがした。
いつもなら、こういう状況になる前に直江は必ず着替えを済ませているので、高
耶がこの件に関して特に気にする事はなかったのだが。
(オレの知らない直江)
そう思った瞬間、高耶の胸が少女のように高鳴った。いつもと違う直江に、妙にドキ
ドキする。絶対赤くなっているだろう顔を隠すのに直江の膝の上で縮こまっている
と、それに気づいた直江が微笑みながら高耶の髪を一房掬った。
「寒いの? 高耶さん。温めてあげましょうか」
「!? こ、子供扱いすんなっ!」
からかわれた! と思った高耶が直江の腕の中で抗議すると、直江がますます笑
みを濃くした。
「じゃあ、大人扱いすればいいの?」
「! バ、バカッ」
調子づく直江に怒って今度こそ体を離そうとしたら、予想通り直江の腕に阻まれ
た。さらに上半身を起こされて、直江との顔の距離がかなり縮まった。
「高耶さん…」
愛しげに名前を呼ばれて甘いキスが降ってきた。顔のそこここにじゃれるように
落ちてきた唇は、最後に堅く結ばれた高耶のそれに重なった。ささやかな抵抗と
ばかりに応えないでいた高耶だったが、直江の唇の温かさが気持ち良くて、やん
わりと噛まれる下唇が心地よくて、思わずうっとりと瞳を閉じてしまった。いつ
もの事ながら、直江のキスは上手い。直江に導かれるまま舌を招きいれた高耶は、
いつしか夢中になって直江と舌を絡ませていた。
飲み込み切れなかった唾液が顎を伝っていく。それにすら悦に入ってしまって、
切なげに眉を寄せながらキスをし続けていたら、いつの間にか着ていたTシャツ
が大きく捲り上げられていた。
(い、いつの間に……!)
「ん――っ、んっ、んん――!!」
驚いて、直江の髪を掴んで引っ張ってみるが効果が無い。更に、そんな高耶の攻
撃を阻止するかのように直江に強く舌を吸われて、高耶の体に甘い痺れが走った。
夢うつつになって高耶の意識があさってに行っているうちに、これまたいつの
間にか緩められたジーンズの中に不埒な手が進入してきた。
「んんっ! ん…む…っ、…んん、…ぁ、は……、な、おぇ……」
さすがに我に返ってしゃにむに暴れると、ようやく長いキスから解放された。一気
に入ってくる酸素に、高耶は思わず咳込んでしまう。荒い呼吸のまま直江を睨み
つけると、直江はしらっとして熱い手のひらを滑らせた。
「高耶さん、こんなに冷たくなって」
「んあっ!」
「大丈夫、私に任せて。私が温めてあげる」
「…は、はぁっ!? な、何言って…っ」
直江は自分だけ立ち上ると、高耶を強引にソファに押し倒した。そして驚きに目
を大きくさせている高耶の上に覆い被さって、弛んでいたジーンズと下着を一気
に引き抜いた。
「!」
今だ陽の注ぐ明るい部屋に、高耶の白い肌が剥き出しになった。
「なお…」
高耶は全裸になったことにより、はっきりと寒さを感じていた。部屋がまだ低温
のままなのだ。服を着ている時点で既に寒さを感じていたというのに、こんなん
じゃ本当に風邪ひいちまう! そう非難を込めた目で男を見ると、直江がわかっ
ているとばかりに微笑んだ。
「すぐに温めてあげますからね…」
「直江っ!!」
言うなり高耶の左足を持ち上げた直江は、嫌がる高耶を無視してそのままソファ
の背もたれへとかけた。直江にだけ晒している部分が、全開になる形だ。いくら
見ているのがその当人だけだとしても、かなり恥かしい恰好である。高耶は顔ど
ころか全身を朱に染めて、無理やり足を外そうとしたのだが、直江が体を割り込
ませてきたせいでそれは出来ない。直江の目の前で不安定に揺れているものを凝
視されて、羞恥と屈辱から涙が出そうである。
「高耶さん、勃ち始めてる」
わざと大きく出した舌でチロリと舐められて、高耶の体がビクン跳ね上がった。
ザラリとした感触が、敏感なその部分にダイレクトに伝わる。濃厚な愛撫をされ
た訳でもないのに、そこが疼いてどんどん血が満ちてくるのがわかった。
一方的に恥ずかしい恰好を晒して、好き勝手される自分。肉体に与えられる愛撫よ
りも、精神的に受ける影響の方が大きかった。意識すればするほど、前の部分が
退っ引きならない状態になる。
こんなの耐えられない、と思って左足を折り曲げたところを直江に掴まれて、そ
のまま横に広げられた。
「!」
両足を折り曲げて広げた事により、高耶の奥まった場所が剥き出しになった。桜
色に染まっている部分に、室内の冷気が無遠慮に触れる。それにすら高耶の体が
ピク、と反応を返してしまう。
ベッドの中でならいざしらず、こんなソファの上で、しかも真っ昼間からという思い
が高耶の感情を高ぶらせる。扱かれた訳でも、揉まれた訳でもないのにそこは
どんどん大きくなり、その頭から白い液体が流れ出した。
「…あ、……ハ……、な………ぇ…」
足を固定されてしまっている以上、閉じる事は出来ない。だからといって、直江
の背にも縋れない。行く場の失った高耶の手は自分の頭部へと回り、汗に濡れた
黒髪を乱していく。そんな高耶の痴態に煽られた直江はコクリと息を呑むと、ス
ラックスの前を寛げて欲望に滾った肉棒を取り出した。
高耶のそこは、自身が漏らした体液で濡れていた。まだ早いかと思ったが、これ
以上は我慢出来そうにない。
直江は背もたれを倒してソファをベッドの形に直すと、淡く色づく高耶のそこに
押し入った。


                        ♪


「直江…、何で、こうなんだよ。何が温めてやる、だよ。途中から目的変わって
ただろ、お前」
抱え上げられた足の間から、高耶がジト、と睨みつけてきた。
あれからさんざん高耶を温めた直江だった。コトが終わる頃には気温は元に戻り、
室内はかなり暑くなっていた。
肌で感じる熱と内で燻る熱に翻弄された高耶は、朦朧としながらおおいに乱れた。
頬を伝う涙が、額に浮かぶ汗が高耶の苦痛と悦楽を現していた。そんな高耶に劣
情を煽られた直江が、激しく腰を使ったものだから高耶はたまらない。ついさっき
もイカされたばかりだった。
二人は今だ繋がったままであった。何だかんだ言って高耶のそこはノリ気であり、
直江をキツく締め付けたままなのである。
「あなたが悪いんですよ。あんな寒い部屋で寝転がっているんですから」
「何だと! オレのせいだって言うのかっ! …アッ!」
怒鳴り返した途端、力んだことにより銜え込んでいた男を締め付けてしまった。
ツンと奥を突かれて、高耶の前が大きく揺れた。
「ア、ァ……! な…お……」
悶えて背中に爪を立てる高耶。その痛みさえ、今の直江には欲望の導火線に等し
い。
「暑くなってからというもの、あなたが近寄ってくれなくなってしまって寂しかったん
です。そんな時にあなたの体に触れてしまったものだから、つい歯止めが利かな
くなってしまって」
「お、前の…っ、頭には……、それしかねーのかっ」
「はい♪」
「〜〜〜っ」
こういう時ばかり憎らしいほど素直な直江に、繋がったままの姿でふるふると肩
を震わせていると、そんな高耶を見て直江は肩を竦めてみせた。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。あなただって喜んでいたくせに」
「だ、だ、誰がっ」
「しかし、やはりクーラーを止めると暑いですね」
人の話は最後まで聞け! とがなる高耶を後目に、直江はクーラーのリモコンを
取ると「入」のボタンを押した。軽やかなモーター音と共に、冷たい風が吹き出し
てくる。
(あ、気持ちいい……)
体の熱が引くと共に怒りも冷えていくようで、しばらく直江の下でおとなしくして
いた高耶だったが、
「オ、オイ、温度低いんじゃねーか?」
肩をなでる冷風に、自分の事を棚に上げて高耶が眉を顰めた。汗をかいたせいか、
それとも全裸のままなせいか、やけに寒く感じる。
「いいんですよ、これで。またすぐに暑くなるのだから」
「! ………それって」
まさか、と嫌な予感に見舞われた高耶が顔を引きつらせる。そんな高耶にニッコ
リ微笑んだ直江は、腰を押し進める事で答えたのだった

出戻り小説になります;; 書いたのは2年前。もちろん直しました(^_^;)
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