「桜の季節」 BYゆの


「あ〜眠い。」
さっきまで散々屋台を巡り歩いて、やっと座って一息ついたと思った矢先の高耶の一言に、直江は苦笑するしかなかった。
「高耶さん、子供みたいですよ。」
「なんでだよっ!食べたらお前だって眠くなるだろっっ」
余程子供扱いされるのが嫌なのか、やたらとつっかかる高耶が可愛くて、しばらくじゃれる。

屋台の出るところでお花見がしたい。と言う高耶の意向を汲んで、都心から少し離れたところの公園に花見に来ている二人は、結構目立っていた。高耶ははしゃいでいて気づいていないようだったが、他の客、特に女性から視線をやたらと集めている。とにかく高耶を他の人目が届かないところに隠したい直江は、穴場なのか、他に人が誰もいない場所に高耶を連れてきて休んでいた。

しばらく無言で夜桜を眺めていた二人だったが、ふいに高耶が口を開いた。
「何かさ、あれって本当なのかもな。」
「・・・?」
「あれ」の意味が掴めず高耶を見ると、笑って高耶が話し始めた。
「そっか。知らないかもな。氏照兄のよく通っていた神社で、桜の木の下に好きなやつの名前と、自分の名前を書いた石を置くと両想いになれるってゆー言い伝えがあってさ・・」
「やったんですか?」
「まぁな。でもその時は好きなやつもいなくて・・・」

『三郎、自分の名前だけではなく、隣にお前が好きな者の名前を書かなければ神様は願いを聞いてくれぬぞ。』
『いいんです、兄上。いつか好きになった者の名前を書きにここに来ますから、今はいいんです。』
『はははっ!兄上、三郎は頭が良いですな。それでは氏邦も自分の名前だけにしておきましょう。』
『兄上はお好きな方がいらっしゃるのにいいんですか?』
『三郎!兄上には内緒だと言っただろう!!』
『氏邦、その話を詳しく聞かせぃ!』

「その後さー、邦兄があまりに隠すから、氏照兄が邦兄の後を一日中つけてって、邦兄の好きな人を解明しようとしたんだよなー」
笑いながら楽しそうに話す高耶をまぶしそうに見て、直江が苦笑しながら相槌を打つ。
「あのお兄さんならやりそうですね」
「だろー?!氏照兄、仕事放りだしてやってるから父上がすごい怒ってさー。」
大問題になったんだよな。と言ってまた桜を眺める高耶を、直江は後ろから少し強く抱きしめると、口を開いた。

「で、あなたは書いたんですか?名前。」
「?石にか?書いたってゆーか・・・」
言い難そうにする高耶を見て、勘違いした直江が「言いたくないなら・・・」と言いかけると、高耶は慌てて言った。
「違うって。この前・・・・夢、・・・見たんだよっ」
恥ずかしくなったのか、横を向いてこちらを見ようとしない高耶に直江が、
「照れてるんですか?夢は深層心理の現れって言いますしねぇ。それだけ私を想ってくれてたってことですか?」
笑いを含んだ声で言う。
「誰がだよっっ!大体、誰の名前書いたかも言ってねぇのに、お前のその自信はどこからくんだよ!!」
高耶が振り返って拳を繰り出そうとする。けれど本気なわけでもないから、大した威力もない。簡単に抑えこまれて目をそらそうとする高耶の顎を捕らえると直江は、キスを仕掛けた。

「高耶さんは浮気できませんもんね。」
目を覗きこんで告げると、「ばーか。」と高耶が返す。
「お前の方が浮気、できねーだろ。」
「したいとも思いませんよ。」
その返答に高耶が綺麗な笑みを浮かべる。
「その言葉、忘れんなよ」
直江の肩に手をかけて少し伸びをすると、唇を触れ合わせた。


幼い頃の願いは400年の時を経て、満開の桜に見守られて開花する  
 

end.    

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