冬のクリアランスセールを巡って疲れきった高耶は少し休憩しようと喫茶店に入った。
コーヒーを注文して、買い忘れが無いか、考える。
直江はわざわざバーゲンめぐりなどしなくても良いと言うが、高耶は庶民派なので、安ければ安い方が良い、という考えで、若い女性たちでごった返しているデパートに出掛けてきた、というわけだ。
ただ、紳士物なので、婦人服売り場のような壮絶なことにはならないので来られた、とも言えるが。
(あれも買ったし、これも買ったし・・・)
そのとき、ふと、店内に流れる音楽が気になった。
女声ボーカルの洋楽、バラードの曲調に良く合う甘い声。
『They are parts of sixteen reasons why I love you』
運ばれてきたコーヒーを口に含みながら聴いた。
彼を好きな16の理由・・・
英語の曲で歌詞の意味すべては解らないが、恋人の好きなところを16個挙げているらしい。
16個か・・・・
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嵐のような時間の後、ベッドの上で直江の胸に寄りかかって、甘い嵐の余韻に浸る。
こんな時間が高耶はとても好きだ。
何とはなしに昼間聞いた曲を口ずさむ。
「They are all of ・・・sixteen reasons why ・・・I love you・・・」
途切れがちの小さな声。
ふと気づいたように直江に聞いてみた。
「なぁ、直江。お前、俺を好きな理由16個、言える?」
「16個、ですか?それは無理ですねぇ」
高耶の表情がスッと曇る。「そっか・・・16個も無いよな・・・」
「俺、そんなに良いところって無いし・・・」
すっかり落ち込んでしまった。
「ああ、高耶さん、そうゆう意味じゃありません。反対ですよ。あなたを好きな理由を16個に絞るなんて、私にはできません。」
落ち込んだ高耶の機嫌をとるように、髪に口付ける。
「この黒い髪も好きですし」
高耶の顔を覗き込むようにして額にも口付ける。
「おでこも好きですよ。」
ハッと、このままではまた、直江の好いようにされてしまう危険を察知した高耶は、あわてて直江から離れようとした。
「わかった!わかったから。俺が悪かった。変なこと聞いた。だから、やめろ。」
「そんな、素直じゃないことを言う口も好きですよ。」
そのまま口を塞がれ、舌でかき回される。条件反射のように舌をからませ、応える。
ゆっくりと唇を離した直江がキスで潤んだ瞳を覗き込むようにして言う。
「キスには素直に応えてくれるところも好きですよ」
瞬時に耳まで赤くした高耶が何か言うより早く今度は耳に口付けながら
「耳まで赤くなるところも。」
言い終わる時に耳の後ろを舐めることも忘れない。
「ひゃぁん」高耶の悲鳴が上がる。
「感じやすいところも好きですよ」
直江は、高耶の感じるところを知り尽くした指と唇と舌とで、『素直じゃない』と評した唇が素直に「欲しい」というまで、好いように啼かせた。
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さんざん貪られ、気を失うようにして眠り込んでしまった高耶の髪をそっと梳きながら、直江は考える。
(あなたを愛する理由なんて、本当は一つしかない)
『そこに、あなたが、いるから』
(・・・あなたが存在するだけで、私はあなたを永遠に愛することができる・・・)
直江は好きな理由の二つ目に挙げた高耶の額にそっとキスを落として告げた。
「I have only one reason why I love you.」
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