「離れていても…」 by.忍さん


7月23日。言わずと知れた、愛しいあの人の生まれた日。しかし私は、その大事な
日にあの人の傍にはいなかった。
『…やっぱり、無理そうなのか…?』
受話器越しに聞こえる諦めともとれる声色に、私はただ謝るしかなかった。
「すみません…。思ったより手間取ってしまいまして…」
『…………』
長い沈黙。無理もない。今日私が高耶さんの元から離れたのは、彼の命令だった
からだ。
――西の方で怨霊が騒いでいるらしい。今回は直江だけで行ってくれ。俺は、い
つこっちの軒猿から連絡が入るか分からないから。
――…御意。
そうして向かった先の怨霊が思いの外手強く、大切な二人の時間は奪われてしま
った。下手をすれば23日中には高耶さんの元へは帰れないかもしれない、そう考
えていた矢先…。
『直江』
沈黙を破るように発せられた声に、思わず心臓が撥ねた。
「……はい」
きっと、怒っているのだろう。口には出して言わないが、互いの誕生日を祝うの
は当たり前の事と、暗黙の了解の様になっていたから。高耶さんがやっと…換生
という行為の罪悪感に対して前向きに考えられるようになっていたのに。また自
分は、彼の心に嫌な思い出を植え付けてしまうのか……。
『……調伏自体は終わってんだろ?』
「はい。後は周囲の結界の強化と、事後処理のみですが…」
『なら、さっさとやって、さっさと帰って来い!それが次の命令だ。今日中に帰
って来れなかったら一週間は口聞いてやらねぇからな!』
まくしたてるように言って、電話は切られた。思わず茫然としてしまった私の頭
に、途絶えた筈の高耶さんの思念波(こえ)が響く。
『待ってっから、早く帰って来い……直江…』
「…たかやさん…」
嬉しくて無意識に零れた呟きを笑みに乗せて、私も《思念波》を返す。あの人を
安心させたくて…。
『愛していますよ、高耶さん。たとえ離れていても、私の還る場所はあなたの在
る所だけだから。もう少しだけ待っていて…。ちゃんとあなたを抱き締めて、口
づけて…祝福の言葉をあげるから…』

 お誕生日、おめでとうございます。あなたが生まれたこの日に限りない祝福を。
――そして、今日という日を共に迎える事のできる喜びを……。


原作設定のお話ですね。個人的に大好きなので、ドキドキしながら読ませて頂きました!
戦っている頃は、誕生日もなにもないですからね。そんな折のささやかな幸せ。こういう時にこそ、
本当の幸せを感じられるのかもしれないです。
命令という形で、直江を呼び戻した高耶さん。この日は直江と共に、素敵な誕生日を迎えたんで
しょうね。忍さん、素敵な作品をありがとうございました!


* back *
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送