アムリタ」 by.しろわにさん


白い皿の上には、大きなホットケーキが鎮座していた。
高耶さんはそれはそれは嬉しそうな顔で、ナイフとフォークを手にとった。
すいっと、ナイフが入る。
最初にかけたメープルシロップといい具合に溶けたバターか絡み合って、金色
の雫になって光っていた。
一切れ、口に入れる。
もぐもぐと高耶さんが口を動かして、そして幸せそうに笑み崩れた。
「……おいしい!直江、すごくおいしいぞ、コレ!」
その顔を見て、直江も思わず笑み崩れた。
 

高耶さんの誕生日、前からの約束通り高耶さんと直江は一日家でごろごろする
ことに決めていた。ディナーにでもと思っていた直江だったが、高耶さんの『直江の
手料理が食べたい』というご希望に応えることになったのだ。
「……それにしても、すごいなー、直江。こんなすごいホットケーキ、初めてだぞ」
感嘆したように高耶さんが言う。
「私もこんなに簡単にできるとは最初は思いませんでした。フライパンで焼くのは
大変でしたが……」
そう、最初直江は高耶さんの誕生日の朝食のために何枚も何枚もホットケーキ
を焼く練習をしたのだった。……千秋の家の台所で。さすがに辟易したらしい千秋
に教えてもらった裏技が、≪炊飯器≫だったのだ。ちなみに粉も千秋にブレンド
してもらったのだ。……引き換えに秘蔵のウイスキーを持っていかれたが、高耶
さんのためならば惜しくはない。
食卓に並ぶのはゆで卵、サラダ、炊飯器のホットケーキにミルクとオレンジという、
直江にとっては精一杯の朝食だった。
舌の肥えた高耶さんに出すのは最初は気が重かったのだが、高耶さんは喜んで
食べている。
「直江、ゴメンな、ワガママ言ってさ。……面倒だったろ?でも、すごく嬉しい
……ありがとう」
高耶さんが本当に幸せそうに微笑んでくれ、直江はその微笑に見とれた。
「直江?」
「……いえ、高耶さんに見とれていただけです」
本心からの直江の言葉に、高耶さんは照れたように赤くなって、バカ、と呟いた。
そんな顔も可愛らしい。
「直江も食べろよ。はやくしないと残ったシロップ全部かけてやるぞ」
そう高耶さんが脅すので、直江はそれは大変、と自分のフォークを手に取った。
ホットケーキの朝食をこの年で自分が摂ることになるなどとは思っても見なかった
直江だったが、高耶さんと一緒ならアムリタも同然、とそう言うと高耶さんは首を傾
げる。
「……アムリタって何?」
「神々の飲む不老不死の妙薬ですよ」
「直江ってばすごい大げさな……」
「そうですね、本物のアムリタは昨夜頂きましたしね、高耶さんから」
高耶さんは一瞬わからないという顔をして、やがて推察できたらしく一気に真っ赤
になった。
「なおえー!」
くつくつと直江が笑うと、高耶さんも赤い顔のままちょっとだけ直江を睨み、そして
ふっと笑った。


射干玉の髪はいつもさらさらと指の間をすべる。
凛然たるどこまでも深い黒曜石の瞳、かけがえのない言葉を紡ぎだす珊瑚の唇
はわずかに開いて、そこから覗くのは濡れて光る真珠の歯。柔らかい耳朶はいつ
までも触れていたいほどいとおしい。
すんなりと伸びた首筋には直江がつけたあとがいくつか散って、再びそこに舌を這
わせたい欲望にそそられる。
聖域のようなシーツの上で昨夜、二人は互いを確かめ合った。
黒曜石……いや、その力に満ちた瞳を例えるならば、それは不壊のダイヤモンド
がふさわしいのだろうか。
「……あなたの瞳は宝石ならばやはりダイヤでしょうか。その輝きはすべてのもの
を魅了する……」
腰を直撃すると女たちに言わしめた低い声で高耶さんの耳元で囁いてみせる。
高耶さんはくすりと笑った。
「宝石か。……なあ、たまには食べ物で例えてみてくれよ」
直江は思わず詰まった。
そんな直江を見て、高耶さんが微笑した。
「例えばそうだな……直江の瞳は琥珀糖かな。透き通って綺麗で……甘い……し。
髪の毛は……ホットケーキの焼き色かな。幸せの匂いがするし」
照れて俯く高耶さんが、赤くなりながらもさらに言葉を繋ぐ。
「唇は、ビターチョコレートかな。タバコ、控えめにしろよ?」
直江はその高耶さんの顎をとって上向かせた。そしてその唇にそっと口付ける。
「貴方の唇は水蜜桃ですね。甘くて、瑞々しくて、そしてとても柔らかくて、病みつき
になりそうだ……」
「水蜜桃……って、普通の桃とは、違うのか……?食べたこと、ない……」
高耶さんはそう言って目を閉じた。
「ええ、とても……美味しいですよ。でも、高耶さんの唇には……どんな比喩でも
足りないですよ……」
口付けはさらに深くなっていった。 


のわ〜〜♪ これまた、砂糖菓子のような甘さのお話ですね〜〜! ホットケーキを高耶さんの為に
何枚も焼く直江。それを嬉しそうに頬張る高耶さん。すごく幸せに満ちた時間で、読んでいる私まで幸せ
になってしまいました!! それに、宝石に例えられる高耶さんにうんうんと頷きつつ、高耶さんの「食べ
物に例えてみろ」が高耶さんらしくて微笑ましたかったです♪
しろわにさん、素敵な作品をありがとうございました!


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