直江BD合わせお題「長期休暇」 by.リョウキチさん


ホテルの一室。
私は部屋に入ると上着をハンガーに掛ける事もせずに、ベッドの上へ腰掛けた。
「ふぅ・・・。」
一週間前から仕事で、一人九州へ来ていた。
最近の大地震により各地の結界が崩れ、この近辺に不穏な空気を感じたからだ。
長くかかると思っていた仕事は案外早く終わった。
夕べの内に長秀らに結果報告を済ませ、今日は一日後始末に駆けずり回っていた。
予想以上に早く終わったとは言え、何せ一人仕事だ。
部屋に入ったとたんに疲れが噴出したようだ。
深く溜息をつき、そのまま仰向けにベッドへ倒れこんだ。
と。
そのとたんに部屋のチャイムが鳴る。
ベルボーイだろうか。
ルームサービスを頼んだ覚えはないが。
とても従業員とは思えないようなイキオイで何度もチャイムが押される。
私は仕方なく起き上がり、ドアへと向かった。
ノブに手を掛け、
「どなたですか。」
そう問いかると、聞き慣れた声が耳に飛び込んで来た。
「直江、オレだ。」
「!?」
驚いてドアを開けると、目の前に立っていたのは・・・
「景虎様・・・!?」
「直江。」
呼びかけた私に対して、咎めるような響き。
「あ・・・。」
「・・・仕事は、もう終わったんだろう・・・?」
それから、少し寂しそうな瞳。
「ええ、高耶さん・・・。」
「おう。」
口の端だけ上げて、そっけない返事。
チラ。とだけ視線を合わせると、私の横を通り過ぎてベッドへ腰を下ろした。
私は、と言えば。
驚いてまだ思考がついていかない。
「高耶さん、あの・・・。」
「あーあー、説明は後々。それより、ホラ」
と言って彼が私に投げてよこしたのは、かのウ○ダーインゼリー。
「どうせ、疲れたとか食欲がねえとか言って何も食べてないんだろ。とりあえず、
それでも流し込んでおけよ。」




どうにか落ち着いたところで、彼に備え付けのコーヒーを淹れる。
私も今日はさすがにアルコールを受け付けられそうな体ではなさそうだ。
大人しく、彼と同じくコーヒーを淹れた。
ベッドに腰掛けて、しばらくの沈黙。
「直江。仕事はもう終わりなんだろ。」
先に言葉を発したのは彼の方だった。
「はい。」
私は次の言葉を待った。
彼はベッドサイドにコーヒーを置いて私の方を向いた。
「じゃあ、オマエ今日から休め。」
「は?」
「どうせ長くかかると思って、ココもまだとってあるんだろ。」
「ええ・・・。」
急に何を言い出すかと思ったら。
休暇?
確かにこのホテルには長期滞在の予定で予約を入れてある。
予定で行けば、後二週間は滞在出来る事になる。
が。
仕事も終わってしまい後二週間も一人で何をしたら良いものか。
「休みと言っても・・・。」
「オレも休む。」
私の言葉を遮り、早口に、小さな声で彼が言った。
「高耶さん・・・?」
「オマエ働き過ぎなんだ。何もしない。何処にも行かない。家族も知り合いも
いない所で、何も考えないで。休みを休むんだよ。後二週間。オマエにとって
は長すぎる位だと思うけど・・・だから、その間オレも居てやるから。」
「あなたも一緒にですか?」
「そうだよ、オマエがちゃんと休むか監視してやる。」
焦った声で、言い訳のように付け足す。
彼の頬がほんの少し赤く染まる。
そんな彼が愛しくて、私は彼の頭を引き寄せる。
「・・・う、わ・・・っ。」
「あなたが一緒なら頑張って休んでみますけど、何も考えるな。と言うのは
難しいですね。」
そう言って、彼の髪に軽く口付けた。
「オマエ・・・っ。」
私の言う事を察したのか、私を見上げる彼の顔は先程よりも赤い。
「・・・その位なら、別に・・・いい・・・。」
言いながら、俯いて私の胸に顔を埋める。
「それから・・遅くなったけど・・誕生日オメデト・・・。何もしないけど、オマエ
の誕生祝いだけは、するから・・・。」
そう言えば今日は橘義明の誕生日だった。
もしかして、わざわざその為に来てくれたのだろうか。
私は胸の中の彼をそっと抱きしめる。
「お祝いなんて・・あなたが来てくれた事が一番のプレゼントですよ。」
私が言うと彼は頷いて、途切れがちに、小さな小さな、本当に小さな声で。




─だから、今日だけは、オマエのスキにしてかまわないから。─




そう、私の耳に囁いた。



end



うわーうわー!リョウキチさん〜!!高耶さんの最後のセリフが〜〜!!
この後の展開を考えると、かなりムフフフですよー!
ぶっきらぼうにだけど、ちゃんと直江の体を心配している高耶さん。あまあまでしたv
リョウキチさん、素敵な作品をありがとうございましたvvv
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