「至上の夢」 by.しろわにさん


目覚めると、鳶色の瞳が高耶を覗き込んでいた。高耶が目覚めたことに気付くと、
ふわりと微笑む。
これは、夢の続きだろうか。ありえないほど幸福な、一時の夢……。
直江の微笑を見て、高耶はその存在を確かめるようにそっと手を伸ばし、男の頬に
触れた。
(夢じゃ、ない)
「高耶さん……」
男の手が、高耶の手に重なった。




最初は、空耳かと思った。
目の前には、よく見知った、それでいて遠いはずの男の顔がある。端正な顔立ちに
穏やかな口元、聡明そうな額。そして、柔らかな鳶色の瞳。
その鳶色の瞳に、上気したような自分の顔が映っている。
男のおおきな手が肩にかかった。強い力で抱き寄せられて、高耶は反応することも
できなかった。
「――」
再び、今度は耳元で囁くように告げられる。
ふいに視界がぼやけた。
みじろぎすると、抱きしめていた腕の力が緩んだ。そして、その左手が高耶の目元
へとのびる。優しい仕草で拭われて、涙をこぼしていたことを知る。
高耶は瞬いた。
「オレは――」
言葉を紡ぐ前に、高耶の唇はふさがれた。
触れるだけの口付け。ゆっくりと唇が離れた。
「いやがらないのを――答えと思っていいですか」
「お、まえ」
声がかすれる。
「婚約、したんじゃなかったのか」
男は苦笑した。
「断られました。他の人間を愛している男と結婚するほど馬鹿ではない、と」
馬鹿なのは私です、と男はわずかに俯いた。
「自分を騙して。貴方に惹かれていく気持ちを、ただの友愛とすりかえて、あげく
――自分の気持ちから逃げ出した」
その両手が、高耶の頬を包み込んだ。
「こんな私ですが、自惚れてもいいですか。貴方も、私のことを――」
高耶は今度は自分から男の唇を口付けでふさいだ。
「――好きだよ、直江……」



 
直江の手が、優しく高耶の髪の毛を梳く。
「高耶さん、体は大丈夫ですか?喉は渇いていませんか」
高耶は首を振った。体に残る気だるさも、痛む腰も、すべてが心地よい。
直江が始末してくれた肌も取り替えてくれたらしいシーツもさらりと乾いていて、
高耶は微笑んだ。
「なおえ……」
かすれる高耶の声に、直江は形のよい眉をわずかに寄せた。
「水を持ってきますね、待っていて」
頬に口付けを落として、直江は身を翻した。その後姿を高耶は見つめた。
(……気持ち、いい……)
体のだるさも手伝ってか、高耶は再びうつらうつらとした。
「……高耶さん?」
直江の声に、ようやく目を開ける。
「ああ、疲れているんですよね、そのまま休んでいてください」
「みず……」
高耶の求めに、直江は自分の口に水を含んで高耶の唇に重ねた。
口移しにされた水はわずかにぬるく高耶の喉をおちていく。
「……今日、誕生日なんだ……」
高耶の囁きに直江は目を見開いた。
「そうなんですか、じゃあお祝いしないといけませんね」
くすりと高耶は笑った。
「……もう一口、くれる?」
直江は再び高耶の唇に唇を重ねた。高耶の喉が水を嚥下してこくりと動く。唇を離
して、それから今度はそのまま深く、深く口付けた。



しろわにさんから頂きました♪な、直江が婚約!?と、読みながら取り乱してしまいましたが(笑)、自分
を騙していただけだとわかって、ホッとしました(>_<)苦しいのよ、恋は。それが同性同士だったら尚更で。
その苦しさの向こうに、幸せはあるんですよ。もう泣かさないで、直江(>_<)
しろわにさん、素敵なバースデー小説を有り難うございました!!感激です!!

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