「KOTOBA」 BY哲さん


「高耶さん、好きですよ」
いつもあいつはオレが欲しい言葉を惜しげもなく与えてくれる。だけど口下手なオレはそれに答えられずにいつも困ってしまう。
でも直江は分かっているから聞いてこない、それとも聞くつもりはないのだろうか。
聞きたいときはどんな手を使ってもオレに言わせようとする。そんな時はつい意地になってしまうけれど結局はおまえの思うツボだ。
「愛していますよ」
オレも何でもないみたいにさりげなく言えたらどんなにいいだろう。
でも言おうとする前に顔が真っ赤になってしまって、言う前からバレバレだ。
直江は恥ずかしくなんだろうか、オレが意識しすぎなのだろうか。

「高耶さん、好きですよ」
今日も何でもないところで突然の不意打ち。
オレは驚いて目を見開いてしまう、そんなオレをみながら直江は面白そうにクスクスと笑う。
ここでいつもなら、『ばっ!何言って!ここ何処だとッ』と真っ赤になってオレは怒り出す。本気で怒っているわけではないけど、やっぱり場所は考えて欲しい。
だけど直江は、『なら、後でまたね…』と意味ありげに見詰める。それは夜のお誘い、もちろん断る理由もないけれど、やっぱり『知らねー』という感じでプイと赤い顔を逸らす。

だが、今日は初めからオレの反応は違っていた。
不意に黙り込んで下を向いたオレに直江はまだ余裕顔。しかし、それがただならぬオーラを纏わせればギョッとする。
「…高耶さん?」
さすがにこんな人通りで高耶にしか聞こえていないとはいえ、まずかっただろうかと心配し出した直江に鉄槌が下された。
「二度とそんなこと言ったら許さねーッ」
「…分かりました、じゃあ…また」
『後でね…』の言葉は高耶に遮られる。
「後もクソもねー!二度とそんなこと言ったら許さなねーからなッ!!」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待って下さい!二度とって、金輪際聞きたくないって事ですか?」
「だから言ってンだろ!!」
「何をバカなことを!そんなの無理ですよ?」
「なんでだよ!おまえは言わなきゃ生きられねーのか!ぁあ!!」
「そんな…高耶さん、極端な。生きられますけど、だからと言って…」
「じゃあ二度と言うンじゃねー!言ったらもう二度と会わねーからなッ!!」
何もこんなにもいうことではなかったのだが、この時はこの位言わないと直江には聞き目がないと思っていたのだ。
それを後で後悔するとは知らずに。
「…わかりました」
渋々頷いた直江がその時にどんなに頑なに決心していたとも知らずに。

「じゃあ、行って来ますね」
「ああ…」
チュッと唇をかすめ取られる行ってらっしゃいのキス、今までと変わらない。
ただ時々戯れるように出る『アイシテイル』の言葉が出てこないだけでいつもと変わらない。

何となく気が楽になっていた、今までと同じくらいスキンシップはしているし、ただ傍にいてくれて何も言わなくても信じられる。
何だか愛していると言われていた時の方が、自分はあたふたしてしまって滑稽だった気がした。
「うーーん、何か物足りねー気がしなくもないけど。でも今までさんざ言われたし、なんかうざったくなくていいかも」
だからといって言われて一度でも不快に感じたことはないのだが、自分から言い出したからには自ら物足りないと感じたくなくて気持ちを誤魔化した。
「しかし、あいつもいつまで保つかな?まっどうせそのうち忘れんだろなー」
だが高耶は、直江にとって高耶の言葉がどれほど影響があるか失念していたのだ。

それから暫くたったある日。
「もう、1週間か…。いい加減あいつも言えば別に許すのにな…変なとこ頑固だよな。突然キレたりするくせに、まぁ別に喧嘩してるわけでもないし…」
結局、高耶は物足りなくてしょうがなかった、言葉がなくても信じられるはずなのに今まであった言葉がなくなった事でその部分が気にくわないのだ。
(人間て貪欲だよな…)
初めは傍にいてくれればいいなどと思っていても、その人物が手に入れば次は離したくなくなりどんどんと欲深くなっていく。
一度手に入れていたものがなくなると物足りなくなる、あった時は疎んでいたにも関わらず(もちろんこの場合嫌っていた訳ではないのが条件だが)。
そんなときに直江が部屋で隠れて電話に向かって喋っていたのを聞いてしまった。
『愛していますよ』
確かにそう聞こえた。

高耶はその瞬間、足元が崩れ落ちた錯覚に陥った。
(なんて簡単なんだ。直江が言わなくなったのは約束を守っていたからじゃない、単に他に言う相手が出来たからなのに。バカなオレ…それを真に受けて、もともと自分から言い出して、もしかしたらあの後にオレに呆れたのかもしれない…)
涙も出てこない、あまりの悲しみに心が飽和して空っぽだった。

それでも直江はここにいる、いつも通りにオレに話しかける。きっとオレが、直江がいなくなったら粉々になってしまうのを知っているから。
後見人として?それともいままで執着していたから?同情?憐れみ?それでもそれすらいらないと言えない哀れな自分、弱すぎる人間、ほんのわずかな希望に縋り付いてみっともない成長できない子供。

「高耶さん、どうしたんですか…っ?」
肌を合わせてもどこか醒めている高耶に不審を感じて直江が聞いてきた。
(案外、躰が目当てで別れなかったりして)
自分を皮肉って一人暗く笑う、だがそれならそれでもいいから直江を離したくなくて急に高耶は直江に縋り付いた。
「高耶…さん…?」
「なおえッ、もっとッ!もっとだッ!!」
「どうしたの?」
「はやくッ!」
顔を覗いて高耶の悩みを聞き出そうとする直江に焦れったさを感じて、高耶が直江の躰にのり上げた。
驚く直江を無視して直江の肉塊を無理矢理自分にねじ挿れる。
「ヒッ、アア…ッ!」
「くっ…た…高耶さんッ!」
「あ、ァア、ハァ…、もっとぉ…もっと奧までッ!!」
狂った様に直江を求める高耶にどこか釈然としないまま、それでも高耶に答えるように抱いてきた直江に、高耶はまだ自分が愛されている気がした。

「最近、高耶さんがおかしいんだ…」
「おかしいのはあんたでしょ?」
「晴家、真剣に聞く気がないなら帰れっ」
「わかったわよ。あたしだってね、この頃変だとは思ってたのよ…景虎」
久しぶりに家に訪ねてきた綾子に、直江は高耶のことを聞いてみた。何でもいいから知りたかった。
「だったら少しは真剣に…」
「だってその原因ってあたし知ってるから」
「何だとッ!?」
「あんた、本当に気付かないの?景虎も景虎ならあんたもあんたね…ほんと、呆れちゃうわ」
端から見ればくだらないの一言だが、この二人は真剣過ぎるのだ愛することにもだからほっておけない。
(まぁ、いずれ仲直りするにしても、景虎が悲しんでるのを見てるのはイヤだものね…)

「はい、橘です」
『あ、景虎?私、綾子。今日ね昼間、そっちに行ったんだけど景虎いなかったから…直江の女じゃないからね?』
クスクスと笑い声がした。
今は些細なことでも高耶が気にするのを分かっていたから、綾子はわざわざ電話してきたのだ。
「べ、べつに、そんなこと…」
『ほんとアンタ達って極端なのよねー。まぁいいわ、それよりも景虎さー最近自分の留守録聞いた?』
「留守録?いや、もしかしてオレのとこにいれたのか?」
『まぁそんなところ、だからちゃんと聞いてねっ。それだけ、じゃあねっ』
プープーと電話が切れた。

高耶の部屋には高耶専用の電話が引いてある、これは直江と暮らし始めたときに付けたのだが、結局は携帯と直江の電話を使っていたからほとんど部屋の電話なんて使っていない。
まして留守録なんて気にしていなかった。
高耶は部屋の電話を見てみるとたしかに入っていた。
留守ボタンを押してみる。
「げっこんなに入ってたのか〜!?これって全部ねーさんからッ?」
驚く高耶を余所に、留守録が再生されていく。

『愛しています…』

「え…」
驚いて目を見開く。この誰よりも耳になじんで心地いい響きは…。
『…高耶さん』

「直江…!」
「そうですよ」
驚いて振り向くと直江がそこにいた、その間も留守録からは直江の愛の言葉が続いている。
「言わずにはいられないから、いつ気付いてくれるのかと思っていたんですが、すみません、あなたをそんなに不安にしていたなんて…」
「ちがう…ッ」
高耶は首を横に振った。
悪いのは自分なのだ、誰よりも信用して分かっている筈の直江をまだ信じられない自分が。

穏やかで幸せな暮らしの中で少しはましになったと思っていたのに、それでもまだ変われない自分が悲しく高耶は涙をこぼした。
「ねぇ、高耶さん。俺達は誰よりもお互いがわかっている、でもやっぱり言葉は必要だと思うんです。どんな些細なことでも、もっと分かり合いたい、たとえそれが確認程度の意味しかなくてもやっぱり大切だと思うんです。…だからいつでも言いたい、あなたが好きだと愛していると…それでもやっぱりダメですか?」
「直江!」
直江の胸に飛び込んだ高耶を抱き締めた、高耶もきつく縋り付いてくる。
「オレ…バカだ…ホントに…だってホントは嬉しいのに、いつも言って欲しいのに意地はって…おまえはオレが欲しいと思う言葉をいつだってくれてたのに…必要ないなんてッ!」
「バカですね、高耶さんだけの所為じゃないですよ。俺もつい、周りを忘れてあなたに言ってしまうから、どうしてもあなたを前にすると周りを忘れがちですみませんでした…」
高耶の黒髪を愛おしそうに直江が梳いて、その髪に口づけた。
「オレ…口下手だから…オレもいつもおまえみたいに言えたらって…そしたら少しは慣れるかも知れないのに…」
「いいえ、そんなあなただから時折聞ける言葉が俺には何倍も価値があるんですよ?…それに高耶さんにそんなにいつも言われていたら、俺の方が参ってしまいますよ。腑抜けになってしまいます…っ」
クスリと直江は微笑んだ。
(なんだ、一緒なんだこいつも…)
高耶も嬉しげに直江の胸に顔を埋めた。

ならば毎日言って、腑抜けなこいつを見るのも楽しいかも知れない。その前に自分が言えるかが問題だが、まず無理だろう。
それでも時々は驚かせてやりたい。
そうすれば、その先の飛び上がるほどの嬉しさを直江にもあげられるから…きっと。
さあ、勇気を出して言ってみよう。

「直江…オレ…」
耳元で囁かれる高耶のことば。

―――おまえが大好きだよ。

                                 
End
 


★哲さんより★
同じく闇戦国は関係なく幸せにくらしている二人なのですが…。
スミマセン〜なんだかなって感じで(TT)やっぱりあまあまは難しい(汗)

★ゆの★
高耶さんがかわいい〜vvめったに「好き」とかいわないから、重みがあっていいんですよ〜☆かと言って、直江がめったにしか言わなかったらヤだけど(^−^;)充分あまあまですよ!!でも留守電に「愛してる」とか地道に入れてる直江を想像するとちょっとおかしい(笑)

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