「〜Birthday〜」 BYきさらぎさん



「5月3日、何が欲しい?」

 1週間ぶりの逢瀬の帰り、アパート前に止めたウィンダムの中で、思い悩んだ末に
高耶はそう口にした。誕生日のプレゼントを相手に聞くことが反則技なのはわかって
いたが、基本的経済観念のずれた相手に、いったい何を贈ればいいやら、5月3日の
誕生日まで2週間を切った今も、高耶には思いつかなかった。
そもそもこの男、身につける物から服まで趣味がよすぎて、普段の愛用品に合った
ものをと考えれば考えるほど、現在苦学生な高耶の予算を大幅に越える。いっそ笑い
をとってやろうかという考えが浮かばないでもなかったが、ものは試しと希望を聞い
てみた。
「貴方が下さるものなら、なんでも」
 微笑と共に返された、ある意味予想通りの答えにため息が出そうになった。確かに
高耶がプレゼントすれば、たとえそれが100円ショップの置物であったとしても、
直江は喜んで受けとってくれるだろう。けれどもせっかくの日にだから、本当に使っ
てもらえる、喜んでもらえるものを贈りたいのだ。
 先程から、面白い程に葛藤と困惑の伺える表情に・・・本人がそうとは思っていな
いところがなお更可愛らしくて・・・笑いをかみ殺すのに多少の苦労を要しながら、
直江は助け舟を出すことにした。
「そうですねぇ。とりあえず、5月3日は、1日私に付き合ってください。出来れば
その日1日、私の希望をきいていただけると嬉しいのですが?」
「それはいいけど・・・」
 でもそれとプレゼントは話が別なのだ。
「貴方の側で、貴方と過ごしながら、ゆっくり欲しいものを考えさせてください」
 抱き寄せた高耶の耳元で、吐息のように囁くと、直江はそっと接吻けを、頬から唇
へとすべらせた。

「さて、今日は私のお願いを聞いていただけるんでしたよね?」
 高耶のアパートの玄関先、開口一番直江は告げた。
「あ、ああ・・・」
 到着そうそういきなりこれで、高耶もちょっと腰が引けている。いったい何を言い
出すのだろう?
「すぐ出かけるか?」
「そうですねぇ。まずはウィンドウショッピングにでも行きましょう」
 東京から松本まできて、ウィンドウショッピングもなかろうと思った高耶だが、駅
前のデパートに着いて、さらに当惑することとなる。
「なんで、こんなに荷物が増えてるわけ?」
「さぁ?なぜでしょう?」
 持っているのは直江だが、袋の中身は高耶の物だったりする。小さいものはCDか
ら、大きな物は最新型の圧力鍋(笑)まで。新しいバッシュも入っている。
「おかしい、絶対におかしい。今日はお前の誕生日なのに・・・」
「いいじゃないですか。細かいことは気にしない。このベスト版のCDを貴方に差し
上げるかわりに、私は貴方の愛用のCDをいただく。この圧力鍋で、貴方は私に腕を
振るって美味しい料理を作ってくださる。ほら、全部私のためでしょう?好きなもの
を見るときの貴方の楽しそうな顔も堪能できたし。もっと嬉しそうな顔を見せてくだ
されば、さらに幸せなので、何か食べに行きませんか?そろそろお昼が食べたくなる
頃でしょう?」
「う゛〜」
 お腹が空いてきたことも、食べている時と寝ているときに限りなく幸せそうな顔を
していることも紛れもない事実のため、けれどもそれが癪に障って高耶は唸った。 

 結局のところ、1日直江に甘やかされ、荷物の大半も直江が持ったまま、夕方前に
彼等は高耶のアパートへと戻った。    
「ところで、今日は美弥さんとお父さまは?」
「出かけてるけど」
 それが何か関係あるのだろうか。
「実は、ずっと見たかったものがあるんです」
「は?」
「貴方のアルバムを、見せていただけますか?」
 直江の希望に嫌とも言えず、高耶が出してきた写真はそう多いものではなかった。
あまり恵まれているとは言いがたかった家庭環境のため、小学校の一時期から写真が
存在しなくなるためだ。それでも直江は渋る高耶をなだめて、卒業写真集まで出させ
ることに成功した。
 気恥ずかしいのか、紅茶と茶菓子をつまみつつ、所在なげに横に座る高耶に、1つ
1つ写真を指差しては、その状況を聞き出す。七五三らしい着物姿で、笑顔の美弥の
隣で照れたような困ったような顔をしている元気そうな少年。祭りにでも行ったの
か、得意げに金魚の入ったビニール袋を差し出す姿。持ち主の高耶でさえ気づかな
かった、中学の写真集にちらりと写った姿は、譲に服の袖を掴まれながら困ったよう
な顔をしている。
「俺、こんな顔もしてたんだ・・・」
 という呟きが、いつか耳にした当時の高耶の様子を伺わせて切なかった。
「なんで、こんなの見たいなんて」
「ここには、私の知らない貴方が沢山いるから」
 自分を知らない高耶。高耶を知らなかったその頃の自分。写真の中の高耶を愛惜し
そうに指先で撫ぜる左手には今も確かに残る傷がある。
「ああ、そんな顔をしないで」
 我知らず、直江の左手首へと伸ばした高耶の手をとって、直江は微笑んだ。
「貴方にもう1つお願いがあるんです」
 背広から取り出した長細く薄い箱。
「これを受けとっていただけますか?」
 困惑する高耶を促して包みをあけさせると、中からはシンプルなデザインの腕時計
が現れた。
「なんで?今日はお前の誕生日なのに・・・」
「私の誕生日だからですよ。これからの時間を貴方と共に生きて行きたいから。今は
ずっと一緒にはいられないけれど、貴方と同じ時を刻んでいると感じていたいんで
す。身に着けていただけますか?」
 いつでも貴方を感じていられるように・・・と言う直江自身の左手首にも、同じ時
計が嵌っている。高耶には少し大人びたデザインが、この男にはしっくりきている。
それがすこし悔しいけれど、高耶がこの時計が似合うような年になっても、2人で同
じ時を過ごそうと言っているようで嬉しかった。
「ずっと、着けてるから」
 名前の彫られた時計の裏の金属面が、冷たいはずなのに暖かく感じる。そっと接吻
けた左手を優しく奪いながら、直江は悪戯っぽく微笑んで自分の唇を指差した。


fin.


ううう、直江、カッコ良すぎです〜〜!! それに凄い優しい(高耶さんにだけなんだろう
なぁ)。自分の誕生日もうま〜く利用(?)するというか、もう、奇跡のような愛ですね!!
高耶さんが幸せそうです〜〜。そして私もニヤニヤ。
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