触れるようなキスをして」 BY京香


気が付いたのは、夕食の時だった。
表情はいつもと変わらないのだが、箸の動きがどこか遅いと思った。
高耶の好物の、まぐろの刺身だってあるというのに、それに至ってはほとんど手に付けない状態だ。
具合でも悪いのだろうか。
直江は咄嗟にそう思ったが、それにしては顔色は悪くないし、高耶もそんな素振りは見せない。
では、何故…?
直江は席を立つと、キッチンで後片付けをしていた高耶に声をかけてみた。
「高耶さん、食が進まなかったようですが、どこか具合が悪いのではないですか?」
手際良く皿洗いをしている高耶の背中に声をかけると、高耶は不思議そうに言った。
「何で?」
「何でって…。高耶さん、お刺身も残していたじゃないですか」
好物なのに、と言うと、高耶は手を止めて、あぁ…、と苦笑した。
「悪かったな、直江。せっかく買ってきてくれたのに。…今日は食べたくなかったんだ」
肩を竦めて言う高耶に、直江は近寄って再び問いかけた。
「…それだけ?」
「? 他に何があるってぇんだよ。ただ食べたくなかっただけだ。…わかったなら、あっち行ってろよ。片付けちまうから」
「高耶さん」
「ほら、行った行った」
まだ何か言いたげな直江に、濡れた手のままシッシッと追いやると、仕方なく直江はリビングへと踵を返した。
「高耶さん…」
「わっ…!」
リビングに入ると、いきなり後ろから抱きしめられた。
どうやら、高耶の片付けが終わるのを、直江はずっと待っていたらしい。
「なおえっ」
何の前触れもなくくっついてきた男に、最初こそ驚いた高耶だったが、好きな相手に抱きしめられて悪い気はしない。
一瞬後には力を抜いて、直江の成すがままその身を預けていた。
広い男の胸が、高耶の背にピッタリ合わさっている。
ふわふわとした感覚が高耶の全身に行き渡って、安堵感から高耶はほぅっと息を吐いた。
何でコイツの腕の中って気持ちいいんだろう。
そう思いながらウットリと瞳を閉じると、お約束のように、直江の手が高耶の顎を持ち上げた。
キスされる。
そう思ってうっすらと唇を開いた高耶だったが、次の瞬間ハッとして直江の顔を押しやった。
「ぶっ…、た、たかや、さん…?」
まさか抵抗されるとは思っていなかった直江は、少なからずショックを受けた。
今までに、(強引に迫った時は別として)キスを拒まれた事はなかった直江だ。特に今みたいに、ムードを高めてからのキスは、高耶だって密かに好きなはずだ。
それなのに、何故…。
先ほどの事といい、キスの事といい、今日の高耶はやはりどこかおかしい。
直江は、高耶の体を反転させて向き合うと、真相を確かめるべくその顔を覗き込んだ。
「高耶さん…、あなた私に何を隠しているんですか?」
じっと瞳を見つめながら言うと、高耶がピクッと体を揺らした。
「べ、別になんもねーよ」
直江の眼差しから逃れるように、瞳を逸す高耶。
それに、何かある、と直江は確信した。
再び高耶を見据えると、
「嘘おっしゃい。今日のあなた、何かおかしいですよ」
今度は心配そうな顔をして問いかける直江に、高耶は困ったように瞳を伏せた。
それに直江の胸が締め付けられる。
何を隠しているのだろうか?
高耶にこんな顔、させたくなんかないのに。
「高耶さんっ」
掴んだ腕を優しく揺すって答えを促すと、高耶は迷うような素振りを見せたが、しばらくしてからふっ、とため息をついた。
「わかった、わかったよ直江。…言うよ」


「…それであなたは、物が食べられなかったというのですか」
呆れを含んだ目で見る直江に、高耶はバツが悪そうにそっぽを向いた。
その頬は、羞恥からかやや赤くなっている。
「う…。だ、だから言いたくなかったんだよッ」
そう言って、唇を突き出した高耶が可愛いらしい。
直江は呆れも忘れて思わず破顔した。
「まさかそんな理由だとは思いませんでしたが、…でも、どこも具合が悪くなくてホッとしましたよ」
表情を弛めて「あまり心配させないで下さいね」と唇を寄せる直江に、高耶は慌てて押しやった。
「だ―ッ! お前っ、オレの話聞いてたんだろーがっ」
キスはダメだ、と言う高耶に直江はキョトンとした。
「どうして? あなたは味の濃いものが駄目なんでしょう、舌が荒れているのだから。…なら、私のキスは大丈夫でしょう?」
ぬけぬけと言ってのける男に、高耶はすかさず反論した。
「何でだよ。オレは舌が! 痛いんだぞッ。キスしたら痛いだろーが」
カァッと顔を赤らめながら「キスの出来ない理由」を述べると、直江は眉を下げてクスクスと笑った。
「なおえっ」
笑われた事にムッとして声を荒げると、
「すみません、高耶さんっ。でも、一体どんなキスを想像したんですか?」
「えっ? ど、どんなって…」
何か間違った事を言ったのか、と焦る高耶に、直江は思わせぶりに微笑んだ。
「大丈夫、唇に触れるだけだから」
だから、キスをさせて…。


不意打ちで頂きました(笑)あまーい!!ってゆーか、高耶さん、あなた普段ディープなキスしかしていないのね?!!キス=べろちゅーってゆー図式が成り立ってる高耶さんが可愛い(*^−^*)ありがとうでした☆
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